病院に戻ってカカシ先生に報告したら、お腹を抱えて大笑いされてしまった。
「あはははははは・・・!」
「笑い事じゃないわよ、もう!」
「はははは、ゴメンゴメン・・・。しっかしアイツら・・・サクラをからかうなんて、ホント怖いもの知らずだな」
「・・・どういう意味?」
「いやいやいや・・・今度アイツら呼び出した時に、よーく言い聞かせておくからさ。オレに免じて許してやってよ」
「勘違いだって、よぉぉぉく言っといてよね!」
「はいはい、よーく言っときます」
「もう・・・。あれのどこが、躾が行き届いてるのか・・・」
「しょうがないさ。アイツらの嗅覚は、オレ達の何万倍もあるんだから。微かに付いたオレの匂いにだって過敏に反応しちまうよ」
「むー・・・」
「今ここにアイツら呼び出したら、オレもっと酷い事言われるぞ。きっと」
「・・・・・・?」
「なんせ身体中にべっとり、サクラの涙だの鼻水だの涎だのがくっ付いてるからさー。あはははは・・・」
「―――!」
よ、涎は付けてないでしょうが。鼻水は・・・微妙だけど・・・。
ああもう・・・。
でも、あの場にいたのが忍犬だけで本当に良かった。
あんな話、もし誰かに聞かれでもしたら、それこそ大変な事になって――
「・・・あ・・・」
「どうした?」
「キバくん・・・、私の顔見て、一瞬変な顔してたの・・・。ひょっとして、それってまさか・・・」
「あー、あり得るかもねー。アイツ、犬並みに鼻が利くもんな」
「ええーっ!?ど、どうしよう・・・」
私、ただ先生の看病してただけなのに・・・。
疚しい気持ちなんて全然なかったのに・・・。
・・・なんでこんな事になっちゃうのかなあ・・・。
「ああああああ・・・」
「おい、そんな落ち込むなって」
「だってだって・・・。あーもう誤解なのに・・・」
「放っときゃ、そのうち忘れるさ」
「忘れなかったらどうすんのよ・・・!」
頭を抱えて、地面にめり込みそうなほど激しく落ち込んでしまった。
どうして先生は、そんな平気な顔していられるんだろうな。
今度キバくんに会った時、なんか言われたりでもしたら、どうすればいいの。
あ、それよりも、まさか・・・。まさか他の人達に喋ったりしないよね・・・。
そんなの・・・、そんなの、絶対に困る・・・!
「嫌か?」
「え?」
「オレとそんな風に思われるの・・・、そんなに嫌か?」
悪戯っぽく先生が笑っている。
でも・・・。
ほんの一瞬、瞳が淋しそうに揺れたのを私は見逃さなかった。
「えっ、あの・・・ええと・・・そのぉ・・・」
ギシギシ・・・と心が軋んで悲鳴を上げる。
もしかして・・・。
もしかして私、カカシ先生を、傷付けちゃった・・・?
なんか私、とんでもない間違いを仕出かしちゃったのかもしれない。
取り返しのつかないような失敗を、仕出かしちゃったのかもしれない。
「あははは、ごめんごめん。冗談だって」
もう、いつものカカシ先生に戻っている。
でも、胸がグリグリ抉れるように痛くて仕方ない。
どうしよう・・・。
嫌なんかじゃない・・・。嫌なんかじゃないよ。
そうじゃなくて・・・、そうじゃなくてね・・・。
「そうだな・・・、今度キバに会った時にでも、オレからよく言っとく――」
「ち、違うの・・・!」
「ん?」
「違うの、そうじゃなくて・・・」
「どうした?」
「せ、先生が嫌いとかそういうんじゃなくて、あ、あのね・・・」
「うん」
「その・・・、勝手に誤解されてる事が嫌っていうか・・・」
「・・・・・・」
「えっと、つまり・・・別に疚しくもないのにそういう目で見られるのは迷惑っていうか、憶測でそう決め付けないでほしいっていうか・・・」
「・・・うん・・・」
「他に想像のしようがなかったのかなっていうか、よりにもよって、どうしていきなりそういう事になっちゃうのかなっていうか・・・」
「・・・うーん・・・」
「べ、別に、相手がカカシ先生だからどうのこうのじゃなくて・・・、問題はそこじゃなくて・・・えーとえーと」
「うん」
「・・・えーと・・・・・・えーと・・・」
「・・・・・・」
「・・・えーと・・・」
「・・・・・・」
「・・・うぅぅ・・・」
「・・・なるほど。つまり」
カカシ先生がニコッと笑う。
その途端、私の身体はぐらっと大きく傾いた。
「何かあれば良い訳だな」
「え・・・えぇっ!?」
腕を強く引っ張られ、視界が急転する。
ガクンと身体がつんのめり、咄嗟に目の前のものにしがみ付いた。
グルグルと景色が変わる。がしっと何かに支えられる。
「おっとっと・・・」
「!!!」
・・・気が付いた時には、私は先生の腕の中にいた。しかもすっぽりと。
すぐそこに・・・ほんの数センチ先に・・・カカシ先生の顔がある・・・。
「ほら、これで誤解でも何でもなくなった」
「・・・あ・・・ああ・・・あああああ・・・」
なななな何してるんですか、カカシ先生!?
どうしていきなりこんな展開になっちゃうんですか!?
倒れ込んだのを支えてもらったとか、軽く抱き締められたとか、そういうレベルじゃない。
痛いくらいに、ぎゅうぎゅうと腕の中へ閉じ込められて、身動きどころか、呼吸もろくに出来なかった。
「せ、先生、冗談は止めて・・・!」
「・・・・・・」
「なんなのよ!・・・ねえ・・・」
「・・・・・・」
「ね、離して・・・。苦しい・・・」
「・・・・・・」
「ちょっと、先生聞いてる・・・?」
「・・・・・・」
「ねぇ・・・ってば・・・」
「・・・・・・」
急に押し黙ってしまったカカシ先生。
気まずいような妙な雰囲気に、どうしたらいいのか分からない。
ちら・・・っと顔を盗み見ると、先生は何かを思い詰めたような不思議な表情を浮かべていた。
ズキンズキン・・・と、またしても胸が疼き出す。
それでなくてもドキドキしてるのに・・・。
ズキズキとドキドキで、もう私の心臓はパンク寸前じゃないの。
どうしてくれんのよ、カカシ先生・・・。